昨今、目覚ましいIT技術の発達により人々の生活は大きな変化を遂げています。ひと昔前は存在しなかったサービスが次々と生み出されることで、我々の生活はますます便利になっています。
それらの便利なサービスを利用する際に「これは使いやすい」「こういうものが欲しかった」と思うような場面も多くあるのではないでしょうか?
本記事では、近年、ITサービスを設計する上で注目を集める「人間中心設計」というキーワードについて、そのビジネスにおける重要性とあわせて解説していきます。
目次
人間中心設計(Human-Centered Design、HCD)とは
人間中心設計(Human-Centered Design、HCD)は、製品やサービスの設計プロセスにおいて、ユーザーのニーズや要求を中心に据えるアプローチ方法のことを言います。何よりもユーザーの視点を重視し、ユーザーが製品やサービスを使う際の体験を最適化することを目指す手法です。
人間中心設計のプロセスは、調査、分析、設計、評価の4つの段階で構成されています。最初に、ユーザーのニーズや要求を把握し、問題や課題を明確に定義します。次に、多様なアイデアを生み出し、それを具体的な形に落とし込んだプロトタイプなどで実際にフィードバックを集め、その解決策を評価します。これを何度も繰り返して最適な解を導き出す手法です。
多様性が重視される昨今において、ユーザーの体験を最大化し、ユーザーが得る価値を最優先に考えることは今や不可欠になっていると言えるなかで、人間中心設計に大きな注目が集まっています。
人間中心設計が注目される理由
近年、主に以下の2つの観点で人間中心設計の活用が注目されるようになっています。
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テクノロジーの進化と競争激化
近年はテクノロジーの進歩により、製品やサービスの提供が容易になり、市場競争が激化しています。そのため、顧客を引き付け、彼らを維持するためには、ユーザーが製品やサービスを使う際の体験を重視する必要があります。人間中心設計は、競争力を獲得しそれを維持するための重要な戦略として位置づけられています。
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ユーザーエクスペリエンス(UX※)の重要性の認識
近年、顧客満足度やロイヤリティの向上が企業の成功に直結することへの理解が大いに高まってきました。人間中心設計は、ユーザーのニーズや要求を優先し、優れたUX(※)を提供することを目指すため、企業や組織にとって不可欠なアプローチとなってきています。
※「UXとは」…
UXとは「ユーザーエクスペリエンス(User Experience)」の略でユーザーが購買サービスの利用を通じて得る体験全体のことを意味します。 とりわけITサービスの画面の美しさや使いやすさなどの利用体験だけに焦点を当てて語られることが多いですが、実際はオンライン / オフライン問わずユーザーが得る体験についてはその全てを指します。
※UXの重要性に関しては過去の記事「DXを推進する際になぜUXを重要視する必要があるのか?」を参照
人間中心設計がもたらすメリット / 効果
人間中心設計を活用してサービス開発を行うことで、どのようなメリットが得られるのでしょうか?大きくは以下の2点にまとめることができます。
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顧客ロイヤルティの向上
ユーザーが自分のニーズに合った製品やサービスを提供されることは、ユーザーがサービスに抱く満足度が高まり、その結果としてその企業やブランドに対するロイヤルティも向上します。したがってユーザーが良い体験を重ね続けることで、長期的な関係が築かれ、リピート購入や口コミでの拡大が促進されます。
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効率性と生産性の向上
人間中心設計は、ユーザーが製品やサービスを使う際の体験を最適化するだけでなく、その過程を効率化し、生産性を向上させる効果もあります。ユーザーのニーズや要求が明確に理解され、それに基づいて設計された製品やサービスは、無駄な機能や操作を排除し、シンプルで効率的な利用が可能となります。これにより、ユーザーはより効率的にタスクを遂行し、企業や組織はそのサポートをする機会が少なくなり、結果として生産性を向上させることができます。
人間中心設計の概念を活用する際の注意点
多くのメリットがある人間中心設計の活用ですが、以下に挙げたような点に注意することが必要です。
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適切なユーザーの理解が必要になる
人間中心設計を活用するためには、ユーザーのニーズや要求を正確に理解することが重要です。しかし、すべてのユーザーが同じニーズを持っているわけではないため、代表的なユーザーグループを選定し、それらのユーザーのニーズを十分に理解することが重要です。適切なユーザーを選定し、彼らのニーズや行動を観察し、分析することが成功の鍵です。
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過度の依存
人間中心設計は、ユーザーのフィードバックやテストを重視するアプローチですが、過度にユーザーの意見や要求に依存しすぎると、製品やサービスの方向性がぶれたり、ユーザーの一時的な反応に振り回される可能性があります。適切なバランスを保ちつつ、ユーザーのフィードバックを適切に活用することが重要です。
ITサービスにおいて人間中心設計を用いた成功事例
実際に、人間中心設計を用いることでどういった成功を収めることができるのでしょうか?頻繁に話題に挙げられる例として、世界的に人気な音楽ストリーミングサービスである「Spotify」の例を紹介します。
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背景
Spotifyは、音楽ストリーミングサービスとして急速に成長してきましたが、ユーザーが特定の楽曲やアーティストを見つけるのが困難であるというフィードバックを受けていました。また、ユーザーの好みや嗜好を正確に把握し、パーソナライズされたプレイリストを提供することが求められていました。
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施策
Spotifyは、人間中心設計の原則に基づいて、ユーザーのニーズを理解し、製品を改善するために次のような施策を取りました。
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ユーザー調査やデータ分析を行い、ユーザーがどのような音楽を探しているのか、どのような機能を求めているのかを把握する。
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AIや機械学習アルゴリズムを活用して、ユーザーの嗜好や好みを分析し、パーソナライズされたプレイリストを提供するシステムを開発する。
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ユーザーのフィードバックを積極的に取り入れ、サービスの改善を継続的に行う。
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結果
Spotifyは人間中心設計を用いた取り組みにより、ユーザー満足度を大幅に向上させることに成功しました。ユーザーは、より簡単に好みの音楽を見つけることができるようになり、プレイリストを通じて新たな音楽を発見する楽しさをSpotifyを通じて得ることができるようになるという体験の進化を遂げました。これによってSpotifyの利用者数と定着率が増加し、市場シェアを拡大することに成功しました。
UXを重視したプロジェクト推進を行うには
自社でUXを重視した事業開発プロジェクトを推進するためには、以下に示すような中長期的な施策をおこなっていく必要があります。
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社内 / プロジェクト内のUX人材育成
社内において、実際にUXを重視したコンセプト設計や検討をおこなう人材が不足している場合は、どうしてもプロジェクトの推進力が落ちてしまいます。人材の育成は短期的に行うことが難しいので、中長期的な目線での人材投資 / 機会創出が求められます。
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組織全体のデザイン思考の重要性の啓蒙
社内やプロジェクト内においてユーザー体験が軽視されていると、あらゆる場面において各所の協力を得ることができずプロジェクトが進まなかったり、最悪の場合は頓挫してしまうことも考えられます。
結論 / まとめ
人間中心設計は、単なるアクセシビリティ向上だけでなく、そのサービスの価値を最大化させるために鍵になります。今後もテクノロジーの発達により様々なサービスが生み出される中で企業は積極的に方法を採用してよりサービスをグロースしていくことが求められるでしょう。この機会に、自社のサービスが人間中心設計の観点でどのようなことができるのか、いま一度考えてみてはいかがでしょうか?
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