現代においては、デジタルプラットフォームの普及に伴い、多くの人々がオンライン上で情報やサービスにアクセスすることが当たり前になってきました。しかし、障害や異なる文化背景、言語の制約を抱えるユーザーにとって、均一な体験を提供することは簡単ではありません。 利用者の多様性を重視したサービスの設計をすることにより多くの人々にサービスを提供することがますます重要になってきています。
本記事では、近年、ITサービスの業界で注目を集める「インクルーシブデザイン」というキーワードについて、そのビジネスにおける重要性とあわせて解説していきます。
目次
インクルーシブデザインとは
インクルーシブデザイン(Inclusive Design)は、デザインプロセスの中で、できるだけ多くの人々にとってアクセス可能で使いやすい製品、サービス、ウェブサイト、アプリケーションを開発するためのアプローチ方法です。インクルーシブデザインのアプローチは、障害を持つ人々だけでなく、異なる文化的背景、言語、年齢、技術的スキルを持つすべてのユーザーを考慮に入れます。
多様性が重視される現代において、ITサービスは多岐にわたるユーザーを想定し、さまざまなユーザーを視野に入れた上でサービスを設計することが求められています。
インクルーシブデザインが注目される理由
近年、主に以下の2つの観点でインクルーシブデザインの活用が注目されるようになっています。
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ビジネスを開発する企業責任の変化
SDGsの概念への注目にもみられるように、企業や組織は社会的責任を果たすことがますます重要視されています。インクルーシブデザインは、障害者や異なる文化的背景、年齢、性別などを持つ人々に平等な機会とアクセスを提供する手段として位置づけられ、社会的責任を果たす方法の一つとして注目されるようになってきています。
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法的要件の変化
近年、多くの国や地域で、ウェブアクセシビリティや障害者の権利に関する法的要件が導入されています。インクルーシブデザインは、これらの法的要件に適合するために重要になってきています。法的規制に適合しない場合、企業やウェブサイトは法的な問題に巻き込まれ規制の対象になったり、最悪の場合は事業の撤退も余儀なくされたりするケースも存在します。
インクルーシブデザインがもたらすメリット / 効果
インクルーシブデザインを活用してサービス開発を行うことで、どのようなメリットが得られるのでしょうか?大きくは以下の2点にまとめることができます。
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企業イメージ/ブランドの向上
インクルーシブデザインを実践する企業や組織は、社会的責任を果たすリーダーとしてのイメージを構築することができます。包括的なデザインは、ブランド価値を向上させ、ポジティブな評判を築く手助けとなり、結果として社会に対する企業イメージのアップを実現することができます。
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UX(ユーザーエクスペリエンス)※ の改善
インクルーシブデザインは、デザインの使いやすさとアクセシビリティを高めるための手法を組み込むことを重視しています。結果として、ユーザーエクスペリエンスが向上し、ユーザー満足度が高まることでサービスをさらに多くの人々により高い頻度で利用してもらうことができます。
※「UXとは」…
UXとは「ユーザーエクスペリエンス(User Experience)」の略でユーザーが購買サービスの利用を通じて得る体験全体のことを意味します。 とりわけITサービスの画面の美しさや使いやすさなどの利用体験だけに焦点を当てて語られることが多いですが、実際はオンライン / オフライン問わずユーザーが得る体験についてはその全てを指します。
※UXの重要性に関しては過去の記事「DX推進にはなぜUXが重要なのか」を参照
インクルーシブデザインの概念を活用する際の注意点
多くのメリットがあるインクルーシブデザインの活用ですが、以下にあげたような点に注意することが必要です。
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ユーザーを理解し、ユーザーと協働してサービスを作る
後述するように、ユニバーサルデザインと異なってインクルーシブデザインは実際に特定のユーザー層の負を基点として包括的なデザインを実施することになります。したがってユーザーの声を聞きながら、時には新たに設計したデザインのユーザビリティを試してその声を聞きながら設計していくことが求められます
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ユニバーサルデザインとの違いを理解する
似た定義のデザインアプローチとしてユニバーサルデザインが挙げられます。確かに多くの人々にデザインを通じてサービスを届けることの概念は類似していますが以下に示す図のように定義もデザインの設計方法も異なります
ITサービスにおいてインクルーシブデザインを用いた成功事例
実際に、インクルーシブデザインを用いることでどういった成功を収めることができるのでしょうか?ここでは世界的なテクノロジー企業で有名なサービスや製品を次々と生み出しているAppleの事例を紹介します。
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背景・課題
Appleは、製品のデザインにおいてユーザーの体験を重要視する企業です。インクルーシブデザインの一環として、Appleは製品やソフトウェアの開発段階から、異なる能力やニーズを持つ人々が利用できるようなデザインを心掛け様々なユーザーを獲得し成長を続けています。
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実施事項
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VoiceOverとアクセシビリティ機能
Appleは、視覚障害者向けにVoiceOverというスクリーンリーダーを提供しています。これにより、画面上の情報を音声で読み上げて利用できるようになります。また、様々なアクセシビリティ機能が組み込まれており、視覚、聴覚、運動に制約のある人々にも利用しやすくなっています。
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グローバルナビゲーション
Appleの製品やソフトウェアは、シンプルで直感的なインターフェースを提供し、異なる言語や文化を持つユーザーにも使いやすく設計されています。
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成果
結果として、アクセシビリティに関する法的要件にも準拠することができただけでなく、幅広いユーザー層を獲得し、顧客満足度を高めることができました。特に、アクセシビリティ機能の提供により、視覚障害者やその他の障がいを持つユーザーにとっても、製品やサービスの利用が容易になりました。
この事例は、企業が異なる能力やニーズを持つ人々を考慮に入れ、製品やサービスを提供することで、より広範なユーザーベースを確立し、成功を収めることができることを示しています。
UXを重視したプロジェクトを推進するためには
自社でUXを重視した事業開発プロジェクトを推進するためには、以下に示すような中長期的な施策をおこなっていく必要があります。
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社内 / プロジェクト内のUX人材育成
社内において、実際にUXを重視したコンセプト設計や検討をおこなう人材が不足している場合は、どうしてもプロジェクトの推進力が落ちてしまいます。人材の育成は短期的に行うことが難しいので、中長期的な目線での人材投資 / 機会創出が求められます。
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組織全体のデザイン思考の重要性の啓蒙
社内やプロジェクト内においてユーザー体験が軽視されていると、あらゆる場面において各所の協力を得ることができずプロジェクトが進まなかったり、最悪の場合は頓挫してしまうことも考えられます。
結論 / まとめ
インクルーシブデザインは、現代のデジタル社会において、ユーザー体験の向上だけでなく、社会的責任の一環としても重要です。障害を抱える人や異なる文化的背景を持つユーザーに対する包括的な配慮を意味し、デジタル体験の壁を取り払う役割が重要になっていく中でこれまで以上に深く理解し、正しく取り入れていくことが求められていくことでしょう。
この機会に、自社のサービスがインクルーシブデザインの観点でどのようなことができるのか、いま一度考えてみてはいかがでしょうか?
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